データ分析基盤を作る際、安価に大量のファイルを格納できる「データレイク」は非常に便利ですが、運用していくうちにいくつかの根本的な課題に直面します。
- 更新や削除がしにくい(ファイルは追記が基本)
- 書き込み途中でジョブが失敗すると、中途半端にデータが書き込まれて壊れる
- 複数の処理が同時に書き込むと、競合が発生し整合性が崩れる
- 「いつの時点のデータが正しいか」が曖昧になりやすい
- スキーマ(列)が変わった際にデータが破綻しやすい
Delta Lakeは、これらのデータレイク特有の課題を解決し、データレイクを「信頼できるデータ置き場」へと進化させる技術です。
Delta Lakeは「データレイク+データベースの安心機能」
Delta Lakeは、Parquet形式のファイルを使いながら、次のようにデータベースのような安心機能を提供します。
- ACIDトランザクション:途中で失敗したら元に戻せる(失敗しても反映されない)
- 同時更新の整合性:複数人や複数ジョブが同時に書き込んでもデータが壊れにくい
- 履歴管理(タイムトラベル):いつの時点のデータでも再現できる
データレイクは壊れやすい?
Delta Lakeが必要とされる背景には、ファイル置き場としてのデータレイクの性質があります。
- 書き込み途中で失敗すると壊れやすい
大量データを書き込む途中でジョブが落ちた場合、中途半端な書き込みになることがあり、データ破損の原因になりやすい。 - 更新・削除が苦手
ファイルは基本的に追記向きであるため、「一部の行だけ更新(UPDATE)」や「条件に合うデータだけ削除(DELETE)」といった操作が得意ではない。
Delta Lakeの仕組み:シンプルで強力な「トランザクションログ」
Delta Lakeの中核はトランザクションログ(Delta Log)。
Delta Lakeが管理するデータは、以下の2種類で構成されます。
- 実データのParquetファイル
- トランザクションログ(_delta_log フォルダ)
トランザクションログが、どのファイルが最新データを構成しているかを記録しています。
Delta Lakeは、書き込みが成功した場合のみこのログに反映させ、失敗した場合はログに反映しないことで、ユーザーからは失敗したデータが見えない状態を実現します。
このログが履歴として残ることで、データの壊れにくさと再現性が確保されます。
Delta Lakeが提供する主要な「データベース機能」
このトランザクションログの仕組みがあることで、データレイクは強力な機能を持つことができます。
1. UPDATE / DELETE / MERGE が可能
ファイル置き場でありながら、SQL的な操作が可能になります。特にMERGE(差分取り込み、Upsert)は、日次の差分反映やCDC(変更データキャプチャ)を行う際に強力に機能します。
これにより、データ更新(Upsert)が必要な分析基盤の構築が可能になります。
2. タイムトラベル(過去に戻れる)
トランザクションログによってバージョンを持つため、「昨日の状態」や「更新前の状態」を再現できます。
これは、データ更新の事故が起きたときの復旧や、分析結果の再現、検証のためにデータ状態を固定したい場合に非常に有効です。
3. スキーマ管理
データ分析の現場では「列が増える」「型が変わる」といったスキーマ変更が日常的に発生しますが、Delta Lakeはこれを管理できるため、パイプラインが破綻しにくくなります。
レイクハウスアーキテクチャとの相性
Delta Lakeは、レイクハウス構成(データレイク+データウェアハウス)とセットで語られることが多く、データレイクを運用可能な状態にするために使われます。
一般的なレイクハウスの層構造(Bronze、Silver、Gold)において、Delta Lakeがデータの更新・履歴・整合性を担保することで、データレイクなのに運用できる状態を作りやすくなります,。
どんなときにDelta Lakeを選ぶべきか?
次のような要件がある場合、Delta Lakeは有力な候補となります。
- データ更新(Upsert)が必要
- ジョブ失敗によってデータが壊れるのを避けたい
- 複数のバッチ処理が同時に書き込む可能性がある
- データの履歴や監査が必要
- 「正しいデータ」を定義して、安全に運用したい
まとめ
Delta Lakeは、データレイクにデータベースの安心機能を付加することで、データベース的に運用できるように進化させたもの。
データレイクが持つ「壊れやすさ」「更新の弱さ」「履歴の曖昧さ」といった弱点を補い、データを「安心して使える資産」に変えてくれます。
ファイルベースでありながらトランザクション機能やタイムトラベル機能を備えるため、Databricksなどの基盤を設計する際には、Delta Lakeを前提とすることで生成AIや機械学習といったデータ利活用がしやすくなります。
